研究

松本 正( まつもと ただし

専門分野
生物高分子(天然高分子)、酵素化学、食品化学、栄養化学、抗菌性評価
技術支援
技術相談:生物高分子、バイオマス、食品の加工・保存、食品栄養、酵素利用、高圧力利用(生物分野)、微生物利用、防菌防黴、抗菌性評価、天然繊維、環境調和、金属材料、金属分析等
担当機器:赤外分光光度計(FT-IR)、走査型電子顕微鏡、ヘリウム比重計(真密度測定器)、カールフィッシャー水分測定装置、熱伝導率測定装置等

1.食品加工分野およびバイオサイエンス分野における高圧力利用技術の開発

概要
高圧力下において、タンパク質やデンプン等の生物高分子の構造が変化したり微生物が死滅する現象を、食品加工分野やバイオサイエンス分野に応用する手法について、大学や食品関連企業と共同で研究開発を実施した。(高圧力によるタンパク質変性の原理については、左図をご参照ください。)
実績
1)概ね300MPa(3,000気圧)以上の高圧力がタンパク質やデンプンを変性させ、微生物を死滅させる現象を各種食品の加工・保存に応用する手法について、新規食品の試作や新規保存技術の開発を行い、多数の知見を得て新製品開発や論文投稿等を実施した。
2)概ね300MPa以下の高圧力が、体積的な効果により酵素基質複合体の構造をより体積の小さな方向へ変化させる現象を発見し、高圧力による酵素反応生成物の制御の可能性を明らかにし、食品関連企業との共同研究により産業上の実用化を模索するとともに、特許出願、論文投稿等を実施した。
■主な投稿論文等
○松本 正、林 力丸:大豆タンパク質の高圧処理による加工特性,日本農芸化学会誌,64,1455-1459 (1990).
〇松本 正:漬物への高圧利用, 食品と開発, 25(12), 21-23 (1990).
〇松本 正:漬物製造における高圧利用, 食品と科学, 34(9),104-108 (1992).
〇松本 正:漬物への高圧利用, 食品加工技術,13(1), 20-26 (1993).
○Yoshiko Hibi, Tadashi Matsumoto, and Shigeko Hagiwara:Effect of high pressure on the crystalline structure of various starch granules,Cereal Chemistry, 70, 671-676 (1993).
○松本 正:漬物の保存性に及ぼす高圧処理の効果,材料, 45, 268-273 (1996).
○Tadashi Matsumoto, Syoichi Makimoto, and Yoshihiro Taniguchi:Effect of pressure on the mechanism of hydrolysis of maltotetraose, maltopentaose, and maltohexaose catalyzed by porcine pancreatic α-amylase,Biochimica et Biophysica Acta,1343, 243-250 (1997).
○Tadashi Matsumoto, Syoichi Makimoto, and Yoshihiro Taniguchi:Effect of pressure on the mechanism of hydrolysis of maltoheptaose and amylose catalyzed by porcine pancreatic α-amylase, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 45, 3431-3436 (1997).
○松本 正、巻本彰一、谷口吉弘:高圧力による酵素反応生成物の制御, 高圧力の化学と技術,10,116-123(2000).
○三代達也、府中英孝、小玉芳郎、杉山雅昭、松本 正:静水圧と処理温度の相互作用による食肉の色調変化,日本食品科学工学会誌,51(4),202-204(2004).
■関連する学会活動等
○平成3年4月~平成5年3月、平成13年4月~平成15年3月 日本材料学会高圧力部門委員会 幹事

2.タンパク質の変性相図の考察

概要
上記1の研究開発に関連して、タンパク質の熱力学諸量の変化により、当該タンパク質の変性相図がどのように変化するかについて考察した。
実績
1)変性しにくいタンパク質を創成するためには、タンパク質の各熱力学諸量をどうすれば良いか(各熱力学諸量が変化したら、相図はどう変化するか)について、シミュレーションを行い左図の結果を得た。
2)タンパク質の変性相図を基礎として、平成13年度~平成16年度に滋賀県立大学大学院工学研究科において、「生体高分子特論」として温度・圧力とタンパク質の状態から、熱変性、低温変性、圧力変性のそれぞれの原理を中心に講義を実施した。

3.環境調和型バイオ燃料の製造およびバイオマス資源の有効利用に関する研究

概要
地球温暖化や石油資源の枯渇等が問題になるなか、廃食油を原料とするバイオディーゼル燃料(BDF)や未利用バイオマス資源を原料とするバイオエタノール等の環境調和型燃料が注目を浴びている。また、各種バイオマス資源が含有する機能性成分や生物活性成分も利活用の価値がある。そこで、本県に存在する各種バイオマス資源の有効利用を目的に実績欄に記載の6つの研究を実施した。
実績
1)酵素法によるバイオディーゼル燃料(BDF)の製造方法の開発
バイオディーゼル燃料(BDF)の製造において、従来のアルカリ触媒法に代わる環境に優しい製造方法として酵素触媒法の可能性を検討した。10リットル規模のリアクターを用いて試験を行ったところ、変換速度は遅いもののほぼ実用化レベルの収率で製造できることを確認した。
2)琵琶湖の水草を原料とするバイオエタノールの開発
琵琶湖に繁茂して邪魔者になり、地域未利用バイオマス資源としてその活用が嘱望されている水草に着目し、これを原料としてバイオエタノールを製造する技術の開発を実施した。オオカナダモをセルラーゼで加水分解した後、酵母を接種して培養し、エタノールの生成を確認した。また、京都大学との共同研究により水草中の五単糖を資化できる酵母が開発され、水草中の糖類をより効率的にエタノールへ変換することが可能になった。琵琶湖の水草を原料としたバイオエタノールの開発は十分に可能性があることが判明したが、コストと採算性に問題が残った。
3)琵琶湖に生育する藻類によるバイオ燃料の生産技術の開発
水草とともに琵琶湖に生育する藻類の中に、油脂や炭化水素を生産する藻類が存在することに着目し、この藻類を培養することによりバイオ燃料を生産する技術について検討を行った。当該藻類の培養条件を検討し、菌体の生産量を検討しているところである。
4)消化酵素阻害剤の開発に向けた未利用バイオマス資源からの原料物質の探索 
未利用バイオマス資源の高付加価値的な利用法として、α-アミラーゼ、α-グルコシダーゼやトリプシン等消化酵素阻害剤の開発に向け、地域に存在する各種植物資源を試料として消化酵素阻害剤の原料物質の探索を実施した。50種類のバイオマス資源から調製した73試料について、α-アミラーゼ(2種)、α-グルコシダーゼ、トリプシンの4種の酵素に対する阻害効果を検討したところ、数種類から十数種類の試料に顕著な阻害効果が認められた。
5)リグノセルロース含有材料からの機能材料の製造方法の開発
木材資源等リグノセルロース含有材料から、リグニンおよびセルロース等の機能材料成分を様々な用途に利用しやすい状態で(別々に)得ることのできる製造方法の開発を実施した。リグノセルロース含有材料に酸を添加して酸分解する酸分解工程と濾過工程とを含む機能材料の製造方法において、酸分解工程の酸としてスルホン酸系の酸を用い、かつ芳香族系グリコールエーテルの存在下で行うことでセルロースとリグニンを分けて抽出する手法の開発に成功し、特許を取得した。
6)塩生植物から脱塩された機能性成分を取得する手法の開発
塩生植物の中には機能性成分を含有するものがあるが、植物内には数%の塩分を有し、機能性食品としての利用を困難としている。この問題を解決するため、安価で効果的な脱塩方法の開発を行った。抽出時に通常用いる水の代わりに有機溶媒を用いる事により、大幅な脱塩を行いつつ機能性成分の濃縮をすることに成功し、特許を取得した。
■主な投稿論文等
〇Haruo Mimura, Shinichi Nagata, and Tadashi Matsumoto : Concentrations and compositions of internal free amino acids in a halotolerant Brevibacterium sp. in response to salt stress, Biosci. Biotech. Biochem., 58, 1873-1874 (1994).
〇植野憲子、口西裕子、瀧井幸男、松本 正、戸田 隆:土壌分離糸状菌 Scopulariopsis brevicaulis MIB301によるバレイショ組織のマセレーション,日本食品化学学会誌,5,38-43(1998).
〇大山雅寿、石井大輔、松本 正、林 久夫:ミクロフィブリル化セルロースの表面修飾とポリ乳酸との複合化, 材料,63(4) , 297-302(2014).

4.工業製品の抗菌技術の開発および簡易的抗菌性評価技術の開発

概要
家電製品の部品として用いられるプラスチック材料に発生するカビの防止や、金属加工の切削油剤として用いられる水性処理剤の腐敗防止について、関連企業と共同で研究を行った。(1985年~1990年)
前研究から30年。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、抗菌技術が大きな注目を浴びるようになり、併せて抗菌性評価技術のニーズが高まった。そこで、繊維やプラスチック材料等について迅速・簡易的に抗菌性が評価できる技術の開発研究に着手した。(2021年~)
実績
1)プラスチック材料のカビの防止については、材料に薬剤(殺菌剤)を塗布したり練り込みを行う手法で発生を防止する技術の開発に成功し、当該家電メーカーの製品に活用された。
2)水性処理剤の腐敗防止については、バクテリオファージを使用する生物学的、環境調和的な手法により腐敗防止技術の開発に成功し、特許を取得した。
3)繊維、プラスチック試料について、簡便に一次スクリーニング程度の性能評価が可能な手法の開発に成功した。また、試験容器としてバイアル瓶やシャーレの代わりに、ポリエチレン製の袋を使用する方法を思いつき、合理的な手法として独自手法の開発に成功した。本試験方法は、当センターの実施する抗菌性プラスチック素材の開発研究等において、一次スクリーニングの実施に活用して、既に十分に役立っているところである。(2021年~)
■主な投稿論文等
○Tadashi Ohkawa, Masao Hirayama, and Tadashi Matsumoto:The role of alkali-resistant Bacillus spp in the spoilage of grinding fluids,J. Antibact. Antifung. Agents,16, 567-572 (1988).
○太田雅春、久保次雄、松本 正:カビ抵抗性試験および土壌埋没試験によるプラスチック材料の劣化,防菌防黴誌, 17, 465-471 (1989).
○Tadashi Ohkawa, Masao Hirayama, and Tadashi Matsumoto,The first stage of the spoilage of metal cutting emulsions, J. Antibact. Antifung. Agents,18,9-14(1990).